新潟の農業活性化に役立つ仕事を ― その考えに共鳴して転職、自らの使命と受け止めて挑戦する日々

2018.01.22 Mon

農業県としての新潟の将来を考えるなら、米だけに頼っていてはだめ、農家や農業のためにできることはないか ― という池田代表の考えに強く共鳴したという田中一幸さん。製薬会社で洋ランを中心とした育苗に従事していた田中さんは、3年ほど前にNSGグループに転職し、新潟農業・バイオ専門学校で勤務しながら、 “新潟の農業のためになることとは何か”をずっと考え続けてきました。そして立ち上げたのが株式会社ベジアビオ。新潟県内初となるユニット型植物工場による苗生産と環境制御型施設園芸事業事業に取り組んでいる田中さんにお話を聞きました。

新潟は米だけじゃない
全国有数の野菜産地が発展するには…?

 

学生時代はバイオ研究を学び、その知識や技術を生かして、前職では洋ランの育苗を手掛けていたという田中さん。「洋ラン愛好家には希少種が珍重されるのですが、希少種というのはなかなか増やすことができないのです。そこで、クローン苗を作り、繁殖させていきます」。
バブル時代には洋ラン愛好家も増え、希少種の開発も盛んだったそうですが、趣味の世界には流行り廃りが付き物。一部愛好家の好みや時代の流行に左右される植物の世界から視線を移すと、そこに、ふるさと新潟が抱える農業の課題がありました。
「新潟は米王国ではあるが、今後の農業の活性化を考えたら、米だけではダメだ、何かほかにふるさとの農業に役立つことはできないのか? という池田代表の考え方に強く惹かれたのです」。
そこで、田中さんは50代半ばで転職を決意、NSGグループで、“新潟の農業に役立つことは何か”を探り始めます。
「新潟は、実は野菜や果物でも全国有数の産地なのです。ナスは作付面積では全国1位。ほかにも作付面積や生産量などで全国10指に入る作物は少なくありません。ところが、その元となる苗の生産に関しては、他県に頼っているのが現状です」。
丈夫で元気な苗は良質の実を育みます。遠く他県から長旅をしてくる苗より、地場の苗の方が生きがいいのは道理。しかし、費用対効果の面から、手間暇のかかる育苗で利益を上げていくのは難しいのだそうで、新潟では、安い苗を育てるより、実を育てた方が収入の安定が見込めることから、地場産の苗はごくごくわずかになっています。
「天候に左右されずに地元で育った良質の苗を安心して使えるようになれば、新潟の農家さんや農業の役に立てるのではないか……」。かつて、バイオ技術を生かして育苗に取り組んできた田中さん、ユニット型食部t工場を導入し、難しいと言われる苗の生産に取り組むことを決意しました。

閉鎖空間の中で温度、光、炭酸ガス、養液などを24時間自動的に制御。苗にとって最適な環境を常に作り続けられるため、病害虫や自然環境に左右されず、質の高い苗を安定生産することが可能に。
ハウスの中もICT管理され、冬場でも高品質なトマトが生産されています。

 

ICTを駆使して新たな農業にチャレンジ
環境制御型施設園芸とは

事業の方向を定めた田中さんは、2016年に株式会社ベジ・アビオを立ち上げ、2017年には苗生産のためのユニット型植物工場と高糖度トマト生産のための環境制御型温室を開設しました。
生産施設ではICTを活用して、温度や湿度、日射量、炭酸ガス濃度、土壌の水分量や温度など、全てのデータをクラウド上に蓄積し、生育・品質に重要な栽培環境を数値で確認できるようになっています。農業を“見える化”することで、安全でより高付加価値な作物の育成や、収量の安定化を図っているのです。

ベジ・アビオで作っているトマトはフルティカ種という品種で、滑らかで弾力のある果肉に加え、何より糖度の高さが特徴です。この高糖度トマトの味を、水と養分の管理でぎゅっと凝縮。甘みだけでなく、酸味、うま味、栄養価が濃縮されたトマトが出来上がりました。名付けて「とマとマとマと」。トマトとトマトの間に入った「ま」の字は、「まじめ」の「ま」。「真面目にしっかり作っているトマトです、という私たちの姿勢や思いを込めました(笑)」。
何度も開いた試食会では、おいしいという声をもらい、人気イタリアンレストランのシェフからもお墨付きをもらいました。今年の1月からは新潟県内のイオン全店で販売がスタートしています。

色づきと糖度、うま味などを調査。出荷前には、人の目と手で、色、形、大きさ、キズなどをチェックして選り分けます。

 

本当は社長業より現場が好き(笑)
でも、支えてくれる人たちにはちゃんと応えたい

創業から一歩一歩前に進んできた田中社長。朝はスタッフとの朝礼後、必ず生産施設に入り、苗やトマトの様子を観察します。「ICT管理とはいえ、生き物なので、毎日ちゃんと顔色を見ないと心配なんです」と言う、根っからの現場好き。しかし、立ち上げたばかりの会社で多くのスタッフを抱えることもできない事情もあって、社長業は多岐にわたります。経理、渉外、商品管理や研究ほか、仕事の進捗と共にどんどん増えていく状態。時には忙しくて大切な現場を見に行けないことも…。

名刺やチラシに関するデザイナーとの話し合いも田中さんの仕事。時には手ずから売り場のポップを作ることもあるのだそう。


「社長業って、起業前に自分がイメージしていた仕事とは全然違うな(笑)」。
時にはへこむこともある田中さんの心を奮い立たせるのは、「うまく言葉にできないのですが、使命感とか責任感とかに近い思い」だそうです。
「まずはNSGグループに100%出資してもらっています。自分だけのお金だったら、もういいや、ってあきらめてしまうかもしれませんが、人様のお金を預かっている立場なので、簡単には投げ出せない。また、人気のイタリアンレストランや大手スーパー、生産者市場などに商品を卸すことができたのは、すべてNSGグループの方々の紹介があったからなんです。個人の努力ではとうてい無理なことも、グループ全体のパワーに後押ししてもらいました。それがグループ外の地域の方からの支え、協力にもつながり、今の形になってきた。その恩に報いなければ、という責任感でしょうか。そして、最初に心を動かされた、新潟の農業を活性化したい、という思い。遠い目標ですが、自分はこのために転職してきたんだ、このために努力してきたんだ、という使命感に似たようなものに支えられている気がします」。
トマトの流通だけでなく、苗についても、自治体の農業委員会やJAの人たちが視察や相談に訪れるなど、少しずつネットワークが広がってきています。

ブランド化にはネットワークづくりが必要
食料農業大、医療福祉大との連携にも期待

「苗もトマトも、まだまだよちよち歩きですが、ブランド化の計画も今から考えていかないと」という田中さん、ブランド化のためには、ネットワークづくりが欠かせないと言います。
「新潟農業・バイオ専門学校、新潟医療福祉大学と今春開学する新潟食料農業大学、研究面では産学連携が欠かせないと思います。トマトはもっとおいしくしていきたいし、食品の機能性についてももっとエビデンスがほしいし、積み重ねていくことが大切だと思います」。
また、苗でも作物でも、一つの農家、一つの企業だけが頑張ってもだめ、地域全体が手を取り合って一大産地にならなければいけないと考えています。「一軒だけでは弱いんですよ。でも、共同で一大産地になれば、活性化につながりますよね。米以外の作物で中核となるような何かを、地域の人たちとともに探っていきたいですね」。
さらに、「扱う苗や作物も、現在のトマトだけでなく、キュウリ、ナス、スイカ、薬用植物など、必要に応じてどんどん増やし、県内の農家さんに供給していきたい。一方、流通面では、県内消費だけでなく、いずれは県外、首都圏へのルートも開拓しないと…。新潟の野菜を全国区にするためには、生産現場で品質アップを図るとともに、流通ネットワークも広げなければならないので…」と、田中さんの“やることリスト”は増える一方です。
「思いはあっても道ははるかです。自分の年齢を考えると、あと何年……なんて考えて焦ってしまうこともありますが、へこたれないで新潟の農業に貢献できるよう、一歩一歩頑張っていきます」。
株式会社ベジ・アビオ
本社:新潟市中央区長潟2-1-4
生産施設:新潟市北区新富町1419-50
TEL025-278-8062
FAX025-278-8063

田中一幸(たなか・かずゆき)
1961年新潟市生まれ。56歳。玉川大学農学部で農芸化学を学ぶ。卒業後、製薬関係の会社で、洋ラン類を中心としたクローン植物苗などの育苗を担当。2014年、新潟の農業に対する池田代表の考えに共鳴し、NSGグループに転職。農業関係の事業について起業の計画を練り、NSGグループの出資を受けて2016年に株式会社アビオを設立。2017年8月に新潟県初の環境制御型の生産施設が完成。2018年1月、新潟県内イオン各店で、同社の高糖度トマト「とマとマとマと」の販売がスタート。

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