ICT機器を導入しただけでは生産性が向上しない~福祉の現場におけるサービス向上と業務効率改善を目指して~

少子高齢化が進み、どの業界でも同じでありますが、介護分野の人手不足は大きな課題です。2021年に発表された推計では、2025年までに介護職員が32万人不足するとのこと。そうした状況下における対応策の一つとして、NSGグループの社会福祉法人愛宕福祉会では、ICT機器の導入を積極的に進め、介護現場の生産性の向上を図ろうと取り組んでいます。愛宕福祉会のICT機器活用の取り組みをご紹介したいと思います。

このままではサービスを提供できなくなるという危機感がICT機器利用の出発点

NSGグループでは、社会福祉法人3法人と介護事業等を行う株式会社6社で福祉事業を展開しています。愛宕福祉会は、NSGグループが福祉分野の事業展開を開始した際に立ち上げた法人で、1998年に設立しました。新潟県の下越地方と佐渡地方、東京都において高齢福祉、障がい福祉、児童福祉分野の100以上の事業所を運営し、1500名以上の職員が働く組織です。
愛宕福祉会がICT機器の導入に取り組み始めたのはおよそ5年前頃のことです。介護業界は、人材不足や高い離職率、報酬改定、物価上昇など経営環境が非常に厳しい業界です。このままでは、いずれ利用者であるお年寄りや障害のある方に対して、今と同じサービスを提供できなくなるという危機感がありました。愛宕福祉会では、そうした課題を打破し、利用者様に安定してサービスを提供するためには、まずは職員が定着することが大切で、職員が働きやすい職場でなければいけないと考えました。そして、対人サービスである介護の仕事においては、利用者様と向き合う時間をしっかりと確保しなければいけません。その二つを実現する上で、「人がやらなくてもできる仕事をテクノロジーの力を使って置き換える」と発想したのが、ICT機器活用のスタート地点でした。

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具体的にどのような機器を導入しているかいくつかご紹介します。今、愛宕福祉会の特別養護老人ホームの現場では、全員がインカムを利用して情報共有を図り、記録はタブレット端末を活用しています。また、寝返り、呼吸、脈拍などから睡眠状態を判定するセンサーを活用した見守り支援システムや入浴や起立補助のリフトなどの福祉機器を全ての施設で活用しています。
施設内の情報共有にインカムを使用することで、職員間の連携がスムーズになります。一回数十秒の時間短縮ですが、1日の中で積み重なると大きな時間になります。また、利用者様をお待たせする時間もその分短縮されるというメリットも生じます。
介護業務のプロセスの中で、様々な記録を行わなければいけません。以前は一度紙に書いて、まとめて入力していた業務フローをタブレット端末への入力に置き換えることで、サービスの提供から記録までを一連の流れの中で完結することができました。そして職員間の申し送りに要する時間も軽減できるようになりました。
見守り支援システムにより、利用者様がお部屋でどのように過ごしているかが手元の端末で把握でき、夜間のお部屋への訪問回数を減らすことができます。眠っている利用者様が目覚めずに安眠できるようになったり、転倒・転落事故を減らすことができました。見守り支援システムを導入する前後の比較を行うと、お部屋への訪問回数が大幅に減少し、職員の業務の中で一日約2時間短縮されたという結果を出すことができたそうです。
入浴補助のリフトも、それまでは職員が二人で行っていた入浴支援を職員一人で対応できるようになりました。これらも利用者様をお待たせする時間を減らしたり、身体的な負担を軽減できるという効果があるそうです。
こうした機器の活用によって生み出された時間は、利用者様と直接的に関わる時間に充てられたり、ケアプランの作成など他の業務や動画視聴によるスキルアップの研修時間などに充てられています。また、職員に負荷をかけることなく以前より少ない人数で施設を運営できるようになり、さらには残業時間も減少し、ワークライフバランスの向上にも貢献できているとのことです。

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「テクノロジー機器活用の5原則」策定が大きな転機に

テクノロジーの活用に取り組み始めたのは約5年前と書きましたが、活用が進み、大きな効果を発揮するようになったのは、実は最近になってからのことです。2021年に法人内で「テクノロジー機器(ICT機器・介護ロボット)活用の5原則」を定め、共有した事が、活用が進む大きな転機になりました。①事業種別ごとに標準化を定める。②完全ペーパーレス化を目指す。③業務改善「オペレーションの変更」はしっかり行う⇒業務の効率化、生産性向上を。④スケジュールを明確に決める。⑤これらの取り組みを人材確保につなげる。この5つの原則とともに、テクノロジー機器を効果的に活用する事によって、業務がどのように変化するか、そのイメージを共有しました。
また、テクノロジー機器の活用に積極的に取り組む施設長や部署の責任者も現れました。愛宕福祉会では毎年「ATAGOチャレンジ・イノベーション」という各部門の取り組みを発表する機会を設けていますが、そうした場で成功事例を法人全体で共有するという取り組みも行っています。
テクノロジー機器を導入することで、部分的に業務効率を向上させることは出来ると思いますが、それだけでは最大限の効果をあげられたとは言えません。一つの業務の効率化を施設一日の流れに組み込んで業務全体を見直すことが必要です。さらに各施設がそれぞれ別々な運用をしているのではなく、全ての施設で業務を標準化していく事で法人全体として効果を発揮することができます。職員全員が同じ目標や目的に向かってベクトルを合わせて進んでいくといことが非常に重要なのだと思います。

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生産性向上と働きたいと思う職場づくりを推進

介護を取り巻く環境が厳しい中ではありますが、愛宕福祉会をはじめNSGグループ全体で、利用者様により良いサービスを継続して、安定的に提供できるよう、今後も積極的なテクノロジー活用による生産性向上と、職員が働きたいと思う職場づくりに、これからも取り組んでまいりたいと思います。そして、それが利用者様とそのご家族の幸せになり、働く職員の幸せにもなり、NSGグループが目指す幸せなまちづくりに繋げていければと思います。  〆

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