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【新潟医療福祉大学】アスリートの心の疲れ、実は髪に出ていた?~毛髪中の「愛情ホルモン」が示すメンタル不調~
新潟医療福祉大学健康スポーツ学科の越智元太講師、大原和夏さん(健康スポーツ学科2024年度卒)、亀尾羽奈さん(健康スポーツ学科2024年度卒)らの研究グループは、女子サッカー選手の髪の毛に含まれるホルモン(コルチゾールとオキシトシン)を分析し、これらが選手の心の状態と関連していることを明らかにしました。
特に注目すべき発見として、「愛情ホルモン」として知られるオキシトシンが増加した選手ほど、不安や落ち込みなどの心理的苦痛を感じていることがわかりました。これは、オキシトシンが慢性的なストレスに対処しようとして分泌されている可能性を示唆しています。
この研究成果は、アスリートの「燃え尽き症候群」や「オーバートレーニング」を早期に発見するための新しい指標として活用できる可能性があります。
この報告は2026年1月12日付けでスポーツ科学の国際学術誌 Frontiers in Sports and Active Livingに掲載されました。
■研究について
【研究概要】
部活動やスポーツクラブで毎日ハードな練習をしている選手たち。「最近、なんだか調子が悪い」「やる気が出ない」と感じることはありませんか?実は、そうした心身の不調は、体の中で「ストレス」が蓄積しているサインかもしれません。
アスリートにとって、適切なトレーニングは成長に不可欠ですが、休息が足りなかったり、練習がきつすぎたりすると、体だけでなく心にも大きな負担がかかります。これが長期間続くと、パフォーマンスの低下や、最悪の場合「燃え尽き症候群(バーンアウト)」につながることもあります。しかし、こうした慢性的なストレスは、アンケートだけでは正確に把握することが難しく、選手自身も気づいていないことがあります。
本研究では、髪の毛に蓄積されるホルモンに注目しました。髪の毛は1ヶ月に約1cm伸びるため、毛根に近い部分を分析することで、過去1ヶ月間のホルモン分泌状態を読み取ることができます。
大学女子サッカー選手22名を対象に、2025年2月と3月の2回にわたって毛髪を採取し (図1)、ストレスホルモン「コルチゾール」と、社会的絆やストレス緩和に関わる「オキシトシン」の濃度を測定しました。同時に、心理アンケートでメンタルヘルスの状態も調査しました。
【研究のポイント】
・髪の毛からストレスがわかる:採血などの痛みを伴わず、髪の毛を少量採取するだけで、過去1ヶ月間のストレス状態を客観的に評価できます。
・オキシトシンの増加が心理的苦痛と関連:毛髪オキシトシンが増加した選手ほど、不安や落ち込みなどの心理的苦痛を感じていました。「愛情ホルモン」として知られるオキシトシンですが、慢性的なストレス下では「ストレスに対処しようとするサイン」として分泌されている可能性があります。
・2つのホルモンは独立して変動:コルチゾールとオキシトシンは、お互いに関連せず、別々の要因で変化することがわかりました。また、毛髪コルチゾールの変化と活力の変化にも統計的に有意な関連が見られました。
・女子アスリート特有の知見:本研究は女子サッカー選手を対象としており、女性アスリートのコンディション管理に貢献する重要な知見です。
【研究結果】
本研究では、新潟医療福祉大学女子サッカー部の22名(平均年齢19.8歳、サッカー経験約14年)を対象に調査を行いました。
1.トレーニング負荷と疲労の変化: オフシーズン明けの2月から、本格的な練習が始まる3月にかけて、トレーニング負荷は約2.5倍に増加しました。それに伴い、選手が感じる「疲労感」も有意に増加しました。
2. 毛髪オキシトシンと心理的苦痛の関係: 興味深いことに、トレーニング負荷が大幅に増加したにもかかわらず、毛髪コルチゾールや毛髪オキシトシンの平均値には大きな変化は見られませんでした。しかし、個人差に着目した分析を行ったところ、重要な関係が明らかになりました。
特に注目すべき発見として、毛髪オキシトシンが増加した選手ほど、心理的苦痛(不安・落ち込み)が増加していました(rs = 0.43, p = 0.043; 図2)。
この結果は、「愛情ホルモン」として知られるオキシトシンが、慢性的なストレス下ではストレスに対処しようとして分泌されている可能性を示唆しています。また、毛髪コルチゾールの変化と活力の変化にも統計的に有意な関連が見られました(rs = -0.44, p = 0.039)。
3.2つのホルモンは異なる情報を提供: 毛髪コルチゾールと毛髪オキシトシンの間には相関がなく、それぞれが異なる心理状態を反映していることがわかりました。このことは、アスリートのストレス状態を正確に把握するためには、両方のホルモンを測定することが重要であることを示しています。
【今後の展望】
この研究成果は、以下のような応用が期待されます:
1. オーバートレーニングの早期発見:定期的な毛髪ホルモン測定により、選手が自覚する前にストレスの蓄積を検出できる可能性があります。
2. 個別化されたトレーニング管理:選手一人ひとりのホルモン変化を追跡することで、最適な練習量や休息のタイミングを判断する材料になります。
3. メンタルヘルスケアへの貢献:心理アンケートだけでは見落とされがちな「隠れたストレス」を、生理学的指標で補完することができます。
【用語解説】
・毛髪コルチゾール濃度(HCC): コルチゾールは副腎から分泌されるホルモンで、「ストレスホルモン」とも呼ばれます。血液中のコルチゾールは髪の毛が成長する過程で毛髪内に取り込まれるため、毛髪を分析することで長期間のストレス状態を評価できます。
・毛髪オキシトシン濃度(HOC): オキシトシンは「愛情ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれ、社会的なつながりや信頼関係に関わるホルモンです。ストレス反応を和らげる効果があるとされていますが、慢性的なストレス下では、ストレスに対処しようとして分泌が増加する可能性があります。
【研究助成】
本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号:JP22K17739; JP25K21657)(研究代表者:越智元太)、JKA 2024年度研究助成(研究代表者:越智元太)、および新潟医療福祉大学2024年度研究奨励金(研究代表者:越智元太)による助成を受けて行われました。
【論文情報】
論文名:Changes in Hair Cortisol and Oxytocin Independently Associate with Positive and Negative Psychological States in Female Soccer Players
(和訳:毛髪コルチゾールとオキシトシンの変化は女子サッカー選手のポジティブおよびネガティブな心理状態と独立して関連する)
著者:大原和夏1、亀尾羽奈1、越智元太1*
1)新潟医療福祉大学健康科学部健康スポーツ学科(*:責任著者)
掲載誌:Frontiers in Sports and Active Living
DOI:https://doi.org/10.3389/fspor.2025.1742869
【研究者情報】
新潟医療福祉大学健康スポーツ学科
講師 越智 元太
【新潟医療福祉大学】 https://www.nuhw.ac.jp/
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