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全国的にも珍しい人骨の専門研究所。 法医鑑定や公開セミナーを通じて社会に貢献。

2022.09.16 Fri

大学の研究機関としては珍しい「骨」を専門に研究する「自然人類学研究所」が、今年の1月、新潟医療福祉大学に開所しました。この研究所では骨学を中心とした人類学の研究を推進するとともに、地方自治体や警察等と連携して遺跡出土人骨鑑定や法医鑑定を積極的に受託。また骨に関する報告会やセミナーなどを開催して、社会教育・生涯学習への貢献にも取り組んでいます。

研究所を開所した経緯や、今後どのような活動を展開していきたいかなどを、新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 理学療法学科 教授 奈良貴史先生に伺いました。

 

人骨を通じて、全身の仕組みを学生に指導

 

―自然人類学研究所を開所した経緯を聞かせてください。

 

奈良 この大学で私は解剖学を担当しており、人骨を専門的に研究しています。そもそも骨の研究は、解剖学と自然人類学に分かれており、どちらも人を研究する点においては同じですが、解剖学は現代人の体を研究し、自然人類学はどうしてヒトの体が成り立ったのかを歴史的な観点を加えながら研究する学問です。当研究所は骨学を中心とした人類学の研究を深め、それを広く一般に広めることを目的に開設しました。

 

―人骨を専門に調査する研究所は他にもあるのでしょうか?

 

奈良 全国でも数えるほどしかなく、教育機関としては東京大学と京都大学にはあります。私立大学では本学だけです。

 

―学生はどのようなことを学んでいるのですか?

 

奈良 私が所属している理学療法学科で骨学に関するゼミを持っており、学生は「遺跡からの出土人骨」を研究テーマに選ぶことが多いですね。また私の研究テーマの一つは、日本列島で一番古い旧石器時代の人骨を探すことで、この夏には学生と一緒に青森の洞窟に調査に行きました。それを分析することで当時の生活様式などを解明することができます。

 

―学生に教育する上で大切にしていることは?

 

奈良 骨をもとに体の仕組みを丁寧に説明しています。医療分野の大学なので、身体の一部だけでなく、全身を理解することが重要です。授業ではリアルに学ぶためにも、出土した人骨を使っています。医学部であれば別ですが、近年開学した医療系の大学では実際に出土した骨を使用することは数少ないと思いますね。

 

骨から「人類」の成り立ち、歴史・暮らし・生と死を解き明かす

 

―社会貢献活動に繋がる部分もあるそうですね。

 

奈良 当研究所では社会貢献活動に関して、2つの柱があります。1つは全国の遺跡から発掘された人骨の鑑定です。日本史の解明に寄与する活動で、最近は新潟県の阿賀野市から発掘された縄文時代(約4000年前)の人骨が研究所に持ち込まれ調査中です。現地で調査することもありますが、設備が整った研究所に持ち込んだ方が、より精度が高まる場合もあります。最近はそういうケースが増えてきました。もう1つは警察等から依頼がある法医鑑定で、事件性の有無を調べます。このように研究や活動を通した、社会への貢献も大切なテーマです。

 

―古い時代の人骨からどのようなことがわかるのでしょうか?

 

奈良 骨は土器や石器と同じように歴史を解明するのに貴重な情報をもたらします。例えば、性別、年齢、顔つきや体格の身体的特徴が判明します。一概に骨と言っても、それぞれの時代に特徴があり、縄文時代とそれ以降は違いますからね。その理由としては、大陸から渡ってきた弥生人と、縄文人が交わることで変わっていったと推測できます。また江戸時代になると、大名と庶民とは著しく違う。徳川家のような大名は柔らかいものしか食べないので、殿様顔と言われる細面になります。

 

―長岡藩主の牧野家の殿様の復顔も行ったそうですね。

 

奈良 復元してみると徳川将軍家などにみられるような顔立ちでしたが、米百俵で知られる家来の小林虎三郎はしっかりとした顔つきをしていることが解りました。このように日本史の1ページに骨からわかった情報を加えていく。それが当研究所の役目のひとつです。また、これは他の大学との共同研究ですが、当校の診療放射線学科が頭骨をCTで撮影し、3Dプリンターで出力して進めました。幅広い学科を有する本学だからできる連携作業といえますね。

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