
一番アナログだった現場に、
AIという仕掛けで挑む。
常識ごと、塗り替えていく。
給食業界にAIを。
1998年新卒入社。株式会社日本フードリンク代表取締役。医療法人の情報システム担当としてキャリアをスタートし、IT分野にのめり込む。その後、NSGグループ内のシステム会社で経験を積み、2015年に一度NSGグループを離れる。IT企業で経験を経て、2017年に株式会社日本フードリンクへ入社し、NSGグループでのキャリアを再スタートする。2021年より現職に。給食業界にDXやAIを持ち込み、業務改革と社会貢献を推進する。
もう一度、ここから始めるために。
1998年、NSGグループに新卒で入社し、医療法人の情報システム担当として介護保険制度の導入に関わることになった。ITの知識はなかったが、上司から「これからはITの力が必要だ。君にやってほしい」と背中を押され、手探りで勉強を始めた。ドクターや上司から頼られる場面が増えるにつれ、少しずつ、自分の存在意義が見えてきた気がした。社会福祉法人の新設にも関わり、現場と本部の両方を経験するなかで、10年が経った。もっと専門性を深めたいと考え、グループ内の情報システム会社を希望して異動が叶い、コンビニや外食チェーンの案件を担当しながら、開発の現場で実践を重ねていった。その後、NSGグループ外の大手IT企業に転職したが、大きな組織のなかでは裁量が限られ、やりたいことがあっても仕組みや役割に縛られてしまう感覚があった。そんなとき、ふと気づいた。「NSGは、自由に挑戦させてくれていたんだな」。戻りたい。そう思うようになり、当時つながりのあった部長に電話をかけ、「NSGに帰りたいんです。何かできる仕事はありませんか」と伝えた。紹介されたのが、NSGグループ内で給食受託事業を手がける日本フードリンクだった。セントラルキッチンと呼ばれる自社の大規模調理施設や、学校、病院、福祉施設といった現場に常駐する調理スタッフが、食材の発注から調理、提供までを担い、安心・安全で美味しい食事を届けている。ITから最も遠い場所に見えたが、「だからこそ面白い」と思えた。入社当時、現場とのやりとりはFAXや電話といったアナログな手段が中心で、まずは、そこから変えていこうと決めた。

社長という役割が、背中を押した。
まずは現場にパソコンを導入した。今では当たり前になっているが、当時は、なぜ長年慣れたやり方を変えなければならないのかという反発もあった。ただの業務改善ではなく、会社の価値そのものを変える挑戦だと捉えていた。2021年に社長に就任し、やはり最初に手をつけたのはDXの加速だった。なかでも特に力を入れたのが、AI献立システムの開発。給食の献立作成には一件あたり100項目以上の条件があり、「揚げ物は週2回まで」「蕎麦は木曜限定」といったお客様ごとの要望を、従来は栄養士が手作業で確認していた。せっかくの専門性がチェック作業に奪われている。AIを活用すべきだと判断し、NSGグループ内の新潟人工知能研究所と連携して開発を進めた。現場に蓄積された知見と献立データをAIに学習させ、さまざまな条件を満たすパターンを自動で導き出す仕組みが整った。献立作成にかかる時間は約8割削減され、「土曜は麺なしで」と話し言葉で指示すれば、条件に合った献立ができる。現場のストレスが減り、専門性を発揮する時間と意欲が戻ってくるのを感じた。近年は、先代の社長から繰り返し聞いてきた「三方良し」という言葉を引き継ぎ、新しい施策も加えながら、フードロスや環境対策の取り組みもさらに広げている。セントラルキッチンでは、給食提供に伴って発生する食材廃棄が課題になっており、残飯を堆肥に変えて農家に届けるプロジェクトを始めた。未利用魚を学食で汁物として提供するなど、これまで廃棄されていたものを新しい価値に転換する取り組みが少しずつ形になっていった。
その先に見えてきた、業界のかたち。
AI献立システムは、今、外販に向けて動き出している。「ライバルにノウハウを明け渡すことになるのでは?」という声もあったが、自社だけが良くなればいいとは思わなかった。同じように困っている同業者は全国にいる。「業界ごと前に進める仕組みをつくりたい」と考え、オープンソース(ソフトウェアのソースコードを一般に公開し、誰でも自由に利用、改変、再配布できるようにした開発モデル)のように知見を共有する形を選んだ。農林水産省のフードテック実証事業にも採択され、社会的な後押しを受けながら、少しずつ業界の景色が変わり始めている。こうした取り組みを重ねるなかで、自分の考え方も変わっていった。以前は「自分がどうしたいか」を軸に考えていたが、今は「どうすれば、みんなが動けるか」を考えている。一人で進めるのではなく、目的と環境をつくることが、経営者としての自分の役割だと思う。「簡単に人は変えられない。でも、環境はつくれる。」若手に任せるときは、少し背伸びすれば届くようなミッションを渡す。できたときの実感が、次の挑戦へのエネルギーになる。若い頃、時間を忘れて仕事をしていたのも、やらされていたわけではなく、やってみたい、知りたい、つくりたいという気持ちがあったからだ。その熱は、今も自分のなかにある。仕事を面白がれる人間にチャンスをくれる、NSGグループはそんな場所だと思っている。
