「人を育て、個性を伸ばす」新潟医療福祉大学男子サッカー部・佐熊裕和監督の “人間力”を育む指導哲学。

新潟医療福祉大学 / 佐熊 裕和
2025.11.20 Thu
PROFILE
佐熊 裕和
新潟医療福祉大学  健康科学部 健康スポーツ学科 教授 / 男子サッカー部 監督
2013年3月、27年間務めた桐光学園高校の監督を退職し、(公財)日本サッカー協会公認S級コーチの資格を取得。中国の梅縣客家足球倶楽部でプロ指導者としてのキャリアをスタート。2014年に帰国し、新潟医療福祉大学男子サッカー部の監督に就任。現在までに北信越大学リーグ9連覇、全国大会3度の決勝進出など輝かしい実績を残し、複数名のプロ選手を輩出。2022年より健康科学部 健康スポーツ学科教授として教育・研究にも力を注ぐ。
桐光学園で数多くの名選手を育てた指導者が、
新天地・新潟で新たな挑戦を続けている。
選手に求めるのは、技術以上に“人間力”。
自ら考え、行動し、仲間と高め合う力。
短所ではなく長所を磨き、個性を伸ばす。
その信念が、全国の舞台での躍進を生み出してきた。
保健・医療・福祉・スポーツが融合する環境の中で、
佐熊監督が挑む「大学日本一」への道とは。

“人間力”を育み、心を磨く。佐熊監督の指導哲学。

佐熊監督のご経歴についてお聞かせください。

日本体育大学を卒業し、神奈川の桐光学園高校に就職しました。27年間、体育教員としてサッカー部の監督を務め、体育主任なども兼任しました。ちょうど50歳になる年に「もう一度、自分を試したい」と思い立ち、日本サッカー協会公認のS級ライセンスを取得。翌年、中国3部リーグのチームで監督を務めました。その後、新潟医療福祉大学の関係者の方に声をかけていただき、大学サッカーの世界に飛び込みました。以来、新潟医療福祉大学男子サッカー部の監督としてチームを率いながら、現在は健康スポーツ学科の教授として教育にも力を注いでいます。

選手育成において大切にしている指導方針を教えてください。

私の基本は「サッカーの前に人間として立派に育てる」ことです。選手たちが社会に出ても通用する“人間力”を身につけることが第一。その上で、技術を磨いていく。また、短所を克服させるよりも、長所を徹底的に伸ばす指導をしています。不得意なことを無理にやらせても本人は苦しいだけです。それよりも、自分の武器を磨き、自信を積み重ねることで、成長は格段に早くなります。長所が伸びれば、短所は自然と目立たなくなるものです。

大学生を指導するにあたり、気を付けていることはありますか。

大学生は自我が確立しています。だから、押し付けるのではなく“認めてあげる”ことから始める。大学生にとって最も大切なのは、「自分で考える力」です。教えすぎてしまうと、主体的に判断する力が育ちません。私はヒントを出しますが、答えは教えません。自分で考え、失敗を重ねながら成長していく。そこに本当の学びがあると思っています。

サッカーコートで学生に指導する新潟医療福祉大学男子サッカー部・佐熊裕和監督

人間力を育むための工夫もされているそうですね。

ええ。大学では部活の時だけでなく、日常生活の中でも声をかけるようにしています。「授業はどうだった?」「最近頑張っているな」。たった一言でも、学生は“見てもらえている”と感じる。そういう関わりの積み重ねが、人間力を高めると思います。

サッカーコートで学生に指導する新潟医療福祉大学男子サッカー部・佐熊裕和監督

個性を活かし“伸びる選手”の条件。

印象に残っている教え子はいらっしゃいますか。

たくさんいますが、やはり中村俊輔(元日本代表)は特別ですね。彼は高校に入った頃は線が細かったけれど、努力を重ねて代表まで上り詰めました。横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)のユースに上がれなかった悔しさをバネに、努力を積み重ねていく姿に、人としての強さを感じました。挫折を経験した選手ほど、精神的にも成長する。そうした選手が最後に突き抜けていくんです。

大学で伸びる選手にはどんな共通点がありますか。

試合に出ていない時期にどれだけ頑張れるかです。試合に出てから努力するのでは遅い。ベンチにいる時期でも常に吸収し、成長し続ける選手が最終的に突き抜けます。「スポンジのように吸収できるかどうか」、そこがプロへの分かれ道ですね。

インタビューに応える新潟医療福祉大学男子サッカー部・佐熊裕和監督

医療・地域と連携し成長し続けるチームの力。

コーチングスタッフの存在も大きいのではないですか?

もちろんです。これまで指導してきた教え子やOBコーチたちがコーチングスタッフとなり、選手たちを支えています。トレーニングメニュー1つにしても、スタッフ同士が議論を重ねながら内容を磨き上げる。指導者自身も学び続けることが大切です。学生スタッフやトレーナーも含め、みんなが「自分もプロを目指す」という意識を持っている。チーム全体が成長し続ける組織でありたいですね。

医療系総合大学ならではのサポート体制も充実していますね。

はい。これは大きな強みです。連携して、ケガの予防から治療、栄養指導までトータルでサポートしてもらっています。さらにはNSGグループの愛広会の「メディカルフィットネス ロコパーク」や新潟リハビリテーション病院の協力もあり、リハビリや遠征時のトレーナー帯同など、恵まれた環境で練習ができています。

地方大学としての課題をどのように捉えていますか。

課題はやはり、関東の有名大学に比べて高校年代までに目立った活躍をした選手の獲得が難しいこと。ただ、その分、覚悟を持って新潟に来る選手が多い。彼らは本気でサッカーに向き合っています。毎週水曜に行う紅白戦は関東リーグ並みの強度で、選手同士の競争意識を高めています。自分たちで厳しい環境をつくることが大切なのです。

インタビューに応える新潟医療福祉大学男子サッカー部・佐熊裕和監督

社会貢献活動にも積極的に取り組まれていますね。

はい。献血を年2回、行っています。また、月1回は交代で早朝のゴミ拾いを実施しています。誰かに見せるためではなく、「自分たちは地域に支えられている」という感謝の気持ちを形にする活動です。サッカーができる環境は当たり前ではない。そのことを常に忘れないようにしています。

「大学日本一」と「人間力の育成」を軸に、さらなる高みへ。

時代や若者の気質が変化する中で、指導者として意識していることはありますか。

時代に合わせた対応は必須です。昔のやり方のままでは通用しません。いまの学生は感受性が高く、納得して動くタイプです。だからこそ、選手一人ひとりの性格を見極め、個性に合わせた言葉をかけることを意識しています。サッカーが好きでこの道を選んだ彼らに、その情熱をどうやって燃やし続けさせるか。それが今の指導者に求められていることだと思います。

チームとして、今後の目標をお聞かせください。

チームとしての目標は、全国大会での優勝。そして、もう一つは日本代表選手の育成です。もちろん、全員がプロになるわけではありませんが、社会に出ても通用する人間を育てたい。これからも「大学日本一」と「人間力の育成」、この2つを軸に、スタッフ全員で学生たちを支えていきます。

最後に、監督ご自身の今後の展望をお聞かせください。

指導者である以上、「より高いレベルで自分を磨き続けたい」という気持ちは常にあります。これからも、ここ新潟の地で、学生たちと一緒に成長していきたいと思っています。

賞状と校旗の前でほほ笑む新潟医療福祉大学男子サッカー部・佐熊裕和監督