子どもの可能性を伸ばす、地域密着型スポーツ教育の挑戦。

2025.11.14 Fri

東日本大震災をきっかけに、「子どもたちが夢中になれる場を取り戻したい」との思いから立ち上がった一般社団法人福島スポーツアカデミー。震災から12年、地域に根ざしたスクール運営と産官学連携事業を重ね、福島発の多世代総合型スポーツ教育のモデルづくりに取り組んでいます。

その歩みと今後の挑戦について、代表理事の加藤大樹さんに伺いました。子どもたちの未来を切り拓くために、どのような思いで活動を続けているのかを語っていただきます。

表彰状を手に微笑む一般社団法人 福島スポーツアカデミー 代表理事の加藤大樹氏

 

震災をきっかけに誕生した、子どもたちを対象としたスポーツ事業。

― 福島スポーツアカデミーの事業内容を教えてください。

加藤 私たちは、福島県に根ざした地元密着型のスポーツ教育団体で、現在県内に全12ジャンルのスポーツスクール、ダンススクールを展開する「多世代総合型スポーツスクール」として活動しています。イオンタウン郡山内に自社スタジオ「FSAダンスSTUDIO」も運営しています。スポーツの楽しさや上達の喜びを伝えるだけでなく、「人生を豊かにすること」を大切にしています。仲間との出会いや挑戦の経験を通して子どもたちが成長し、やがて地域全体の活力へとつながっていく——そんな思いで活動しています。

 

― 設立のきっかけをお聞かせください。

加藤 設立の原点は2011年の東日本大震災です。震災後、放射線への懸念から屋外活動の機会が減少し、子どもたちの体力不足や肥満率の上昇が社会問題化しました。その現状を変えるべく、2013年に「室内競技で安全に体を動かせる環境」を整えようと、最初に立ち上げたのがバスケットボールスクールです。当時、将来のプロバスケットボールリーグ発展に大きな可能性を感じていましたし、バスケは男女問わず人気があり、ミニバスも地域で浸透していたため、スクール事業として普及の可能性があると考えました。福島の子どもたちの笑顔や活力を取り戻し、「スポーツで夢中になれる場」を届けたい——その思いが私たちの出発点でした。

一般社団法人 福島スポーツアカデミーのバスケットボールスクールでバスケをする子どもたち

 

福島県全域展開を目指し、信頼の輪を広げていった創業初期。

― 立ち上げ当初はどのような苦労がありましたか。

加藤 認知を拡げるため教育委員会や地域クラブの監督・コーチ、地元企業など、関係者に一人ずつ会いに行き、企業理念を丁寧に説明しました。チラシ配布の許可を得るのも簡単ではなく、地道な信頼の積み重ねが必要でした。資金や人材は限られていましたが、NSGグループ全体からの支援で、運営面の助言をもらったり、他のスポーツスクールを展開している法人と情報共有をさせてもらったりしたことも大きな支えとなりました。少しずつ賛同者と仲間が増えていき、「一人で立ち上げた」というより、まさに「グループ全体で挑戦した事業だった」と思います。

 

― 事業はどのように広がっていったのですか。

加藤 「社会に貢献できる人材の育成」や「プロ選手の輩出」を実現するには、より広いエリアでの活動が不可欠でした。福島には中通り・浜通り・会津の3エリアがあり、その主要都市すべてに拠点を設けることを当初から目標に掲げ、着実に拠点を増やしていきました。2010年代は室内競技のプロ化を伴うアリーナスポーツエンターテインメントが急成長した時代。その流れの中で、チアダンスの魅力と人気が高まってきたことから、当スクールで福島でのチアダンス事業を強化普及すべく、開校を実現していきました。Bリーグ誕生に伴い地元プロチームで活躍するチアリーダーチームの立上げ・運営にも携わっていきました。
さらに、小中学校のダンス必修化や福島での本格的なチアダンスに取り組める環境の創出といった面で貢献できたと感じています。

チアダンスをする一般社団法人 福島スポーツアカデミーのチアリーダーチーム

― その後、マルチトレーニングスクールを導入した背景は何でしょうか。

加藤 マルチトレーニングスクールとは、運動能力の向上・運動神経の発達を目的として、ゴールデンエイジ期の成長へ向けたトレーニングプログラムを提供する小学生対象のスポーツスクールです。欧米では常識とされる「マルチスクールへの取り組み(幼少期から複数ジャンルのスポーツを経験し運動技能の幅を拡げる育成)」を福島でも広げたいという考えのもとで導入しました。マルチスポーツ環境の構築はスポーツ庁も推進しており、運動神経の発達や健康づくり、将来の選手育成にも有効であると考えましたので、時代のニーズに合わせながら、総合型スポーツスクールを推進する上で、専門的なプログラムを地域に合わせて展開し、事業化の道筋が明確になりました。

 

― 2023年にはショッピングモール内に自社スタジオを開設されましたね。

加藤 はい。今後の事業成長やブランディングを推進するうえで、集客力の高い商業施設に拠点を構えることで多くの方に認知いただけると考えていました。複数のショッピング施設に構想を伝えながらテナントが空くタイミングを待っていた折、弊社の構想を覚えてくださっていた施設側より新規出店の情報をいただき、すぐに事業化の着手に取り掛かることができたので、チャンスを逃さないよう迷わず挑戦を決めました。スタジオ開設後は多くの新しいスクール生に出会え、イベント会社様や行政機関とのパートナーシップ、異業種との協働など新しいつながりが以前にも増していき、人脈や活動の幅が加速度的に広がりました。

行政との信頼構築が生む教育支援の実績。

― 行政機関や地域との連携について、具体的な事例を教えてください。

加藤 地域の教育現場との協働も、活動を支える大きな柱のひとつです。例えば郡山市教育委員会より6年連続で受託している「民間エキスパート指導者活用事業」においては、民間の専門スクールとしての強みを活かし、小学校の体育授業においてチアダンスやダンス基礎教育の講師を担当しています。市の体育施設や企業から受託したバスケットボール教室やマルチトレーニング教室も定期開催しております。またそれ以前ではスポーツ庁の「地域を活用した学校体育推進事業」や、福島県教育庁の委託事業にも取り組み実績を重ねてきました。これらを通じて多様化する地域のスポーツ教育への参画や環境創出にも積極的に努めています。

 

― 地域連携を進める中で、大切にしていることはどのようなことでしょうか。

加藤 一番大切なのはなによりも「信頼関係を築くこと」です。だからこそ、いただいた依頼にはできる限り応えるようにしています。どのような規模の依頼でも真摯に応え続ける。それが新しいつながりを生み、次の機会とご縁につながっていきます。最近では、SVリーグ女子バレーチームのホームゲームへの出演機会やJリーグチームとのコラボレーション、コンサートツアーや航空エアショーからの出演オファーに発展した例もありました。こうして築いてきた信頼の積み重ねが、次のチャンスへとつながっていると感じています。

 

― 代表としてやりがいを感じるのはどんな時でしょうか。

加藤 日々のスクール活動やイベント機会を通じて、子どもたちの心身が成長し、輝く姿を見られる時です。地域のお祭りや大規模イベントでスクール生チームが堂々とパフォーマンスを披露する姿を見ると、本当に感動しますし、保護者の方が涙を流して喜ばれるシーンを目にすることもあります。また、中には不登校の子が「スクールの日だけは外で交流活動ができるんです」と話してくれたこともありました。スポーツスクールを通じて、子どもたちに”価値”や“居場所”を提供できていると実感した瞬間でした。

一般社団法人 福島スポーツアカデミーのスクール生の郡山うねめまつりでの集合写真

 

福島とともに子どもの未来を築くスポーツ教育の歩み。

― この12年間の活動で、大切にしてきたことは何でしょうか。

加藤 子どもたちの持つ無限の可能性を信じ、その成長を後押ししてきました。学校や家庭では体験できない「プラスアルファ」の価値を提供し、常に目標を持って挑戦できる環境を整えてきました。私自身も2人の子を育てる親ですが、子どもの成長を見守ることは親にとっての大きな喜びであり、生きがいです。福島スポーツアカデミーでの経験が子どもの成長の一助となり、その姿を親御さんが誇りに思えるような場でありたいと考えています。

 

― 今後の展望について教えてください。

加藤 今後の展望は大きく2つあります。ひとつは「部活動の地域移行」への対応です。国や自治体が制度設計を推進しながら地域のスポーツクラブが受け皿となる動きは確実に広がっています。私たちも、福島の子どもたちが安心して部活動を続けられる環境づくりを目指しています。もうひとつは「アーバンスポーツ分野」の展開です。スケートボードやBMXなど世界中の若者に人気の種目を福島で取り入れ、カフェを併設した複合施設として、日常の延長で身近にスポーツに触れられる場づくりを中長期的な視点で構想を練っています。

 

― 最後に、福島への思いをお聞かせください。

加藤 スポーツ教育を通じて育てたいのは「社会で活躍できる人材」です。プロアスリートを目指す子もいれば、心身を健康に保ちたい子もいる、文武両道を目指したい子もいれば、大好きなスポーツをライトに楽しみたい子もいる。子どもたちの背景はさまざまですが、共通しているのは「成長したい」という思いです。その思いに応える場を提供し続けることで、体力低下や運動不足といった社会課題の解消にもつながるはずです。福島から、スポーツの力で社会を元気に——そんな地域の未来モデルを築いていきたいと思います。

一般社団法人福島スポーツアカデミーのダンススクールでダンスをする女の子とロゴ

一般社団法人 福島スポーツアカデミー

福島スポーツアカデミー【FSA】は福島県内に全12ジャンルのスポーツスクールとダンススクールを展開する、地域密着型の多世代総合型スポーツスクールです。
2013年にスポーツを通じこどもたちの”心と身体の成長”と健康増進、”未来へ向かって挑戦する力”を育むことを目的として設立、FSAは福島の地域社会において教育的価値と健康促進、コミュニティ形成に大きな貢献を目指します。

FSA運営スクール一覧(28校59クラス)※2025年10月時点
バスケットボールスクール10拠点、チアダンススクール8拠点、マルチトレーニングスクール1拠点、イオンタウン郡山内の自社スタジオ「FSAダンスSTUDIO」でのダンススクール7ジャンル

福島県郡山市方八町2丁目139光建ビル205号
TEL:024-973-8856 / FAX:024-973-8857
https://f-sports-academy.jp/